最近流行りの番手捲り
最近、競輪界のトレンドワードとなりつつある「2段駆け」、「番手捲り」。8月のオールスター決勝で眞杉匠が吉田拓矢の先行からG1初優勝を遂げたのを筆頭に、9月の立川記念(森田優弥)、10月の熊本記念(中本匠栄)といずれも4車以上のラインで先行し、番手選手の捲りによってラインから優勝者が出ている。また、8月末の松戸記念(深谷知広)も番手捲りでの優勝だった。
ラインで走る競輪である以上、それが全面的に機能してラインから優勝者が出、なおかつ上位独占が決まればこれ以上の結果はない。
しかし、番手捲りがあまりにも続きすぎると面白くないというファンの意見も理解できる。なぜなら番手捲りは非常に強力な戦法ゆえ、きれいに決まると別線はほとんど手の出しようがなく、ほぼ予想通りの結果となってしまうからだ。競輪の最大の魅力である予想と推理の面白みが薄れ、配当の妙味も下がってしまう。
今回は、そんな2段駆けの問題点や見解を深堀りする。
2段駆けの論点を洗い出す
まずは、2段駆けの特徴や問題点など、主な論点を洗い出すところから始めよう。
2段駆けの特徴
ラインの先頭選手が早めに先行し、番手の選手が(ほとんどの場合)最終バックまでに捲りを打つ。別線にとっては勝負所で前のペースが2度上がる(一度は先頭選手のアタック、二度目は番手選手の捲り)ので、番手捲りをさらに捲ることは非常に困難。
2段駆けの利点
非常に強力な戦法で、きれいに決まればラインで上位独占が有望。
2段駆けの問題点
・もちろん失敗することもある(例:番手選手の捲りのタイミングが遅いと、掛かりきる前に別線に捲られてしまう)。
・先頭選手は最終バックを待たずして捲られるので、ほぼ末着が確定。車群から離されすぎると、暴走と認定されて失格となることもある。
2段駆けを問題視するファンの声
・展開が2段駆けをするラインの先行→捲りで決まってしまうので、展開予想の面白みがなくなってしまう。配当も安く魅力が薄まる。
・グレードレースの決勝という最も注目度が高いレースであまりにも2段駆けが続くとさすがに面白くない。
2段駆けをルールで規制するべきか?
中には2段駆けをルールで規制・禁止するべきだという意見もあるが、それもなかなか現実的ではない。ルールで規制するには、「2段駆け」という戦法を改めて明文化しなければならないからだ。どこでラインの先頭選手がペースを上げるのか?どこで番手選手が捲るのか?2段駆けは展開によって仕掛けのタイミングがすべて異なる、これと言って明確な形がない曖昧な戦法だ。そんなものを無理やりルール化しても、結局はファンから疑問の声が上がることは自明の理だろう。
なぜ2段駆けが面白くないか?
ではどうすれば良いか?ここで、2段駆けが「面白くない」とされる理由を考察する。
「2段駆けが面白くない理由」とは書いたが、厳密には「2段駆けが面白くない」のではない。「2段駆けするラインが前受けをするから面白くない」のだ。
現状、誘導員を追い抜くタイミングが赤板でほぼ固定されているため、前受けするラインが圧倒的に有利なのは、前のラインが突っ張ってそのままラインで上位独占が多く見られるA級戦を見れば一目瞭然だ。要は、A級戦と同じことをグレードレースの決勝でやっていることが問題視されているのである。初手から一切の動きが無く、並んだままで展開されるレースが果たしてトップクラスの決勝で許されて良いものか。
では2段駆けをするラインに前を取らせないようにすればいい話だが、それもそう簡単ではない。2段駆けラインの中に1番車や2番車がいればまず前を取られるし、松戸記念決勝の大森慶一のようにS取りが得意な選手がいればなおさらである。
もちろん、長いラインを組めば分断される危険性があるのは以前記事で紹介した通り。2段駆けをするラインも、ただ前に前に踏んでいれば良いのではないというリスクも背負っている。しかし、数で劣る以上別線はなかなか前は取れないものだし、先に脚を使って2段駆けラインの前に出るのも、選手心理的に難しい。
選手は最大限の工夫を、ファンは納得した予想を
それでも、あっさり2段駆けを許してばかりでは「Gレース決勝は2段駆けしかない」と思われ、競輪の魅力や人気に関わってくる。選手は前を取れなかったとしても、追い上げるなり内を掬うなりして2段駆けラインに少しでも抵抗するべきだろう。それがG1決勝の舞台ならなおさら、見え見えの2段駆けを許すようなレースはしてほしくない。そもそも、準決勝の時点で「決勝に発進役を勝ち上がらせないような競走」をすることも今後は視野にいれるべきだろう。
そしてファンは、2段駆けの可能性も含めてある程度納得して予想をする他はない。「9選手が勝つために一番良い戦法を取った結果、このレースは2段駆けで決まるだろう」というのであればその車券を買えば良いし、当たれば文句はないはずだ。逆に、2段駆けを崩すラインがいて別の結果となれば、それはそれで喜ぶファンもいる。全員が予想通りになるレースなど存在しないのだから、それぞれが妥協点を探り合って予想をしていくしかない。
結局全員が満足するレースなどない
結局のところ、全員が満足する結果となるレースは絶対にあり得ない。何も起こらず本線で決まるレースを良しとする者もいれば、乱れに乱れて大波乱というレースを好むものもいる。そして、結果はその都度違ってくる。
選手は1着を獲るためにに最善の判断をして全力を尽くし、ファンは最も可能性の高い展開と結果に車券を張る。たとえそれが自分にとって満足いく結果でなかったとしても、車券は車券として、結果は結果として別個に考え分析し、今後に活かしていくのが正しい「競輪人」としての姿勢ではないか。
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