平均年収1,300万円の競輪選手…実は国家資格!
全国で約2,500名いる競輪選手。平均年収は男子で約1,300万円、女子で約700万円。トップクラスのS級S班なら年収は優に数千万円を数え、最高峰のKEIRINグランプリの優勝賞金はなんと1億円。強くなればなるほど稼げる、まさに優勝劣敗の職業である。
そんな競輪選手だが、実は競輪選手になるには「競輪選手資格検定」という国家試験に合格しなければならない。つまり、競輪選手は国家資格なのである。
競輪選手養成所に入所するには
その試験に合格するために、まずは日本競輪選手養成所(旧・日本競輪学校)に入所する必要がある(厳密に言えば、養成所に入所しなくても試験にさえ合格すれば競輪選手になれるが、そのような例はない)。
入所資格は、入所年度の4月1日時点で満17歳以上であること。そして、入所試験時に基礎学力検査が行われるため、高校卒業程度の学力を備えていることの二つ。逆に言えば、自転車競技経験がなくてもこの二つを満たしていれば誰でも受験することが出来る。
とは言っても、養成所に入所するのはそうそう簡単な話ではない。
養成所入所試験の内容
養成所入所試験は毎年11月~12月に行われ、第一次と第二次の二つに分かれる。第一次試験は技能試験もしくは適性試験。第二次試験は身体検査および人物考査、そして第一次試験で適性試験を受験した受験生のみ実技試験が行われる。
第一次試験の技能試験では、競技用自転車に乗って男子1000m/女子500mのタイムおよび、400mを走行してラスト200mのタイムを計測する。合格のためのボーダーラインは、男子が1000m1分10秒前後/200m11秒50前後、女子が500m39秒前後/200m13秒前後となっており、これは国体上位入賞レベルより若干遅い程度と言われている。
また、自転車競技経験がない受験生はほとんどが適性試験を受験する。試験内容は垂直跳び、背筋力、長座体前屈の3つだが、1回の試験につき10名程度しか合格しないため、こちらも非常に狭き門となっている。
第一次試験をクリアした受験生は第二次試験に臨み、養成所での適性を確認される。これら二つの試験を潜り抜けた合格者は、晴れて選手候補生として、翌年の5月に養成所入所を迎える。
入所試験の合格者は毎年、男子が70名程度、女子が20名程度。倍率は男子が約5倍、女子が約2~3倍となっている。かつては倍率が10倍を超えた年もあり、その頃に比べれば入所しやすくはなったものの、中には5回目、6回目の受験でようやく合格したという選手もいる。
なお、自転車競技やそれに準ずる競技で国際的な活躍を収めた選手には特別選抜入試という制度が設けられ、試験内容が大幅に緩和されている。グランプリ覇者の武田豊樹(茨城・88期)も、この入試制度を利用し入所した。
超過酷!養成所での訓練
晴れて選手候補生となったのも束の間、彼らの本当の戦いはここから始まる。候補生は全員、静岡県伊豆市にある養成所併設の寮で訓練期間(5月~翌年3月)を過ごすこととなる。
養成所および寮での1日のタイムスケジュールは以下の通り(一例)。
06:30 | 起床 |
06:45 | 点呼 |
06:50 – 07:10 | 錬成 |
07:10 – 07:20 | 清掃 |
07:30 – 08:05 | 朝食 |
09:00 | 課業整列 |
09:05 – 09:45 | 第1時限 |
09:55 – 10:35 | 第2時限 |
10:45 – 11:25 | 第3時限 |
11:25 – 12:05 | 昼食 |
12:05 – 12:45 | 訓練準備時間 |
12:50 | 課業整列 |
12:55 – 13:35 | 第4時限 |
13:45 – 14:25 | 第5時限 |
14:35 – 15:15 | 第6時限 |
15:25 – 16:05 | 第7時限 |
16:15 – 16:55 | 第8時限 |
17:00 – 19:00 | 入浴 |
17:45 – 18:45 | 夕食 |
19:15 – 19:45 | 自習 |
19:45 – 20:55 | 自由時間 |
21:00 | 点呼 |
22:00 | 消灯 |
主に午前は学科、午後は実技の授業が行われる。
寮および養成所での生活は分単位で完全に管理され、平日および土曜日の外出は禁止(日曜日のみは外出が許されているが、日は男女で別々になっている)。また、携帯電話やパソコンなどの通信機器の持ち込みは厳禁とされ、違反者には退学処分を含めた厳しい処分が下されることになる(日曜日、養成所外でのみ使用可能)。さらに、帰省が許されるのはお盆と年末年始のそれぞれ2週間程度のみ。無論、その間も候補生は自主的に練習を積んでいる。
競輪選手は一歩間違えば死に直結する職業であるため、教官の指導は当然厳しい。それでも、「自ら鍛えないと強くなれない」という意識が徹底しており、早朝や放課後または休日に学校から課せられた訓練とは別のトレーニングを自主的に取り組む候補生もいる。
なお、近年は学科・実技の授業以外にも、メンタルトレーニング、SNSの使用法、外国人選手とのコミュニケーションを目的とした英会話の授業など、多彩な指導が行われている。
競輪選手養成所(旧日本競輪学校)の一日はこちら⇒
日本競輪選手養成所公式YouTubeによる、競輪選手職業紹介の動画はこちら⇒
卒業記念レースと卒業
10カ月に及ぶ厳しい訓練を乗り越えた候補生は、卒業直前の3月上旬に資格検定を受験する。また、下旬には2日間かけて卒業記念レース(通例伊東温泉競輪場)が行われ卒記チャンプが決定する。卒業記念レース決勝戦の翌日が卒業式で、資格検定に合格すれば養成所を卒業となり競輪選手になる資格を得られる。
その後、新人研修を経て各都道府県の競輪選手会に所属し、晴れてプロの競輪選手としてデビューを果たすこととなる。昨年までは7月デビューで、いきなり先輩選手を相手に走ることになっていたが、今年からは新人選手同士でレースを行う「競輪ルーキーシリーズ」がデビューの場となっており、デビュー時期も5月に早まっている。
まとめ
競輪選手は、高倍率の入所試験を潜り抜け、更に10カ月にもわたる厳しい訓練に耐え抜いたまさに「エリート集団」であり、その能力には表題の高収入もうなずけることだろう。プロスポーツ選手としてのプライド、ギャンブルの駒としての自覚、そして自らの生命と、計り知れない程様々なものを背負っている彼らには、「超人」の称号が相応しいのかもしれない。