競輪の「ギヤ」について
競輪、とりわけ自転車を語る上で欠かせない要素の一つに「ギヤ」(「ギア」とも)がある。今回は、「ギヤ」に関する簡単な説明とその歴史などを解説する。
競輪における「ギヤ」とは?
まず「ギヤ」とは、自転車に取り付けられている歯車のことで、競輪で用いられる競技用自転車のピストバイクは、このギヤの歯数を調節することでペダルを踏み込むのに必要な力や進む距離が変化する。ギヤは前輪と後輪に一つずつ付いており、ペダルを漕いで前輪のギヤ(「大ギヤ」)を回すことで、チェーンを伝わって後輪のギヤ(「小ギヤ」)が回る仕組みになっている。
一般的な自転車と違い、ピストバイクはギヤが後輪に固定されており、ペダルだけが空回りすることがない。つまり、ペダルを踏むと必ず後輪が回転して前に進むことになるため、自転車を止めるにはその分踏む力を弱め、スピードを落とさなければならない。
そして、出走表に掲載されている「ギヤ倍数」とは、前輪の歯数を後輪の歯数で割った数字のこと。「ギヤ比」とも呼ばれる。例えば、大ギヤの歯数が51、小ギヤの歯数が13の場合、ギヤ倍数は「51÷13=3.92」となる。これは、ペダル(大ギヤ)を1回転させると、後輪(小ギヤ)が3.92回転することを意味する。すなわち、このギヤ倍数が大きいほど、ペダル1漕ぎあたりの進む距離が長くなるということである。
ギヤの解説については、こちらの動画もご覧いただきたい(木谷涼選手のYouTubeチャンネルより)。
ギヤ倍数の大小について
では、1漕ぎでたくさん距離を進めるなら、ギヤ倍数は大きければ大きいほど良いのか?必ずしもそうとは限らない。
ギヤ倍数が大きくなると、トップスピードが速くなり、スピードに乗りきると強いのに対し、ペダルを踏みこむのに大きな力が必要となる。そのため、最高速度になるまでに多くの体力と時間を要すことになる。また、ペダルを漕ぐのに大きな力を要するため、細かなスピード調整を行いづらく、落車が発生しやすい。
逆に、ギヤ倍数が小さいと、軽い力と短い時間でトップスピードに達することができるが、最高速度を維持するのにペダルを多く回さなければならない。しかし、ペダルを漕ぐ力が小さくなる分、細かなスピード調整が行いやすく、様々な展開に対応出来る。
変速機付きの自転車に乗ったことがある方は、それを想像すると分かりやすいだろう。「5」や「6」がギヤ倍数が大きい状態、「1」がギヤ倍数が小さい状態である。
選手はこのギヤ倍数を自由に選択してレースに出走することができ、また開催中にギヤを変更して倍数の上下を行うことも可能。選手が節間の調子や踏んだ感覚に応じて、ギヤ倍数を変更することは日常茶飯事である。
ギヤ倍数 | スピード | 必要な力 | 最高速までの時間 | ペダルを漕ぐ量 |
大きい | 速い | 大きい(重い) | 遅い | 少ない |
小さい | 遅い | 小さい(軽い) | 早い | 多い |
現在、競輪におけるギヤ倍数を男子は「4.00未満」、女子は「3.80未満」にしなければならないというルールが定められており、以前に比べてギヤ倍数の種類は格段に減少した。現在主流なのは男子が「3.92」、女子が「3.71」や「3.77」のギヤ倍数であり、多かれ少なかれこの数字の前後で推移している。
かつては男子で、「4.58」のギヤ倍数でレースに出走していた選手もいたが、これについては次項で解説する。
ギヤ倍数の歴史
ここからは、ギヤ倍数がたどってきた歴史を簡単に紐解いていく。
競輪草創期のギヤ倍数情勢は不明だが、1970年代~1980年代前半まで(中野浩一氏全盛期)にはすでに3.57付近のギヤ倍数が主流となっていたようで、中野氏も3.54付近のギヤ倍数で活躍していたとの証言が残っている。また、当時から4.00などのいわゆる「大ギヤ」で戦っていた選手は存在したものの、奇襲を仕掛けたいときや、全盛期を過ぎた選手が使うものであり、そこまで多用されるギヤ倍数ではなかった。
その流れを変えたのが、福島88期の山崎芳仁である。山崎は、まだ3.57~3.64のギヤが主流だった2006年に、3.71のギヤで高松宮記念杯(大津)を制しG1初制覇。その翌年には、ついに4.00という大ギヤで全日本選抜(熊本)を優勝し、大ギヤ時代幕開けを高らかに宣言した。決勝に進んだ他の8名は全て3.62~3.71を使用していたため、いかに山崎の4.00が異質だったかが見て取れる。
以降、山崎は2008年~2012年の5年間で5つのG1タイトルを獲得。”大ギヤの申し子”の名をほしいままにすると共に、他の選手もこぞって4.00以上の大ギヤを使用。2012年~2013年には、グランプリ出場の9選手全員が4.00以上、最高で4.50のギヤを踏む選手も現れるなど、まさに2010年代前半は大ギヤ全盛期といえる時代だった。
しかし、過度な大ギヤ偏重の流れは、以下のような弊害を生む結果となる。
・逃げたラインのスピードが乗り切ると、加速に時間のかかる大ギヤでは後ろからの巻き返しが効かないため、前有利の流れになりレースが単調になる
・↑に関連して、勝負所で前にいた選手が最後の最後で捲り追い込みを仕掛けるだけで上位に入着してしまう(運の要素が大きくなる)
・トップスピードが速くなり、踏み直しが効かなくなることで、減速や細かな動きに対応できず落車・追突が多発する
このような状況やファンの声を鑑みた結果、JKAは2014年12月31日が初日となる開催より、男子のギヤ倍数を最大4.58から4.00に制限することを決定。ここに数年間続いた「大ギヤ時代」は終焉を告げることとなった。
ギヤ倍数あれこれ
これまでの通り、ギヤ倍数は現在男子で「3.92」が主流である。しかし、時代の流れに逆らい、小さいギヤで勝負を仕掛ける選手もわずかながら存在する。
愛知71期の伊藤正樹は、大ギヤ時代から一貫して「3.54」の小ギヤで戦い続けている。1993年のデビュー以降、28年間で積み上げた勝ち星は実に492。あと8勝で大台の500勝に届く。現在も自力兼備のタテ型選手としてS級で活躍を続けており、49歳を迎える今年もまだまだ健在だ。
また、少し前の話になるが2016年11月2日の和歌山5Rで、徳島90期の遠藤純志(引退)が「3.07」という前代未聞のギヤ倍数でレースに挑んだ。一般的な自転車のギヤ倍数がおよそ「2.20」のため、それに毛が生えたような数字である。肝心のレースでは他の選手よりも脚がよく回っていたが、スピードが伴わず大差の9着に敗れている。このギヤ倍数について遠藤の口から真相が語られることは無く、このような超小ギヤを使用した理由は一切不明となっている。
まとめ
今回は競輪のギヤについて解説した。現在、ギヤ倍数が特段予想において重要視されることは滅多にないが、その歴史を知っておくことは悪い事ではない。「競輪知識人」を目指すならば、ぜひ押さえておきたい知識の一つである。
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