【廃競輪場探訪】観音寺競輪場跡を訪ねて

香川県には2つの競輪場があった
観音寺競輪場基本データ
観音寺市へ
競輪場への道を歩く
観音寺競輪場跡地
まとめ

香川県には2つの競輪場があった

2022年現在、香川県に存在する競輪場は高松競輪場のみ。モーニング競輪を開催している他、現在バンクではナイター用照明設備の設営工事を行っており、ミッドナイト競輪の開催も視野に入れている。

しかし、2012年までは、香川県にもう一つの競輪場があった。その名は観音寺競輪場。1950年の開場以来、62年に渡って競輪を開催してきたが、売上不振により2012年3月の開催を最後に廃止となった。

あれから10年、観音寺競輪場はどうなったのか。現地に足を運んだ。

観音寺競輪場基本データ

まずは、観音寺競輪場の基本的な情報をおさらいしておく。

1950年開場、2012年3月廃止。記念開催（G3）は毎年10月、「ことひき賞争奪戦」の名称で行われていた。バンクは1周400m。ほぼ海沿いに建っているため、3コーナーは海風に注意が必要なバンクだった。

2012年3月の最終開催「第18回吉田実杯」には多くのファンが詰めかけ、別れを惜しんだ。最後の優勝者は松尾淳（岐阜）。

観音寺競輪場最後のレース

マスコットキャラクターは「銭形くん」。後に観音寺市のマスコットキャラクターに「昇進」する活躍を見せ、現在も現役で活躍している。

競輪場廃止後もしばらくはバンクとスタンドが残され、香川県所属の選手のみならず地元の高校生の練習場として活用されていたが、2020年4月より順次解体工事を開始した。

現在、跡地には場外車券売場の「サテライト観音寺」、兵庫県競馬の場外馬券売場「DASH観音寺」、JRAの場外馬券売場「J-PLACE観音寺」が建てられている（併設）。

観音寺市へ

観音寺競輪場があった観音寺市は、県の西端に位置する人口約56,000人の市。県内では高松市、丸亀市、三豊市に次いで4番目の人口を有する。中心となる観音寺駅には、高松駅から特急を利用して約50分、車では約1時間で到着する。

観音寺駅構内の周辺地図には、まだ「市営競輪場」の文字が残る。

そして、なぜか近隣のボートレースまるがめの出走表が。訪問日前日にボートレースまるがめの開催は終了していたはずが…。

競輪場への道を歩く

観音寺競輪場跡地―サテライト観音寺へは無料送迎バスも出ていたが、あえて徒歩での訪問を選択。

訪問当日は風が強く、気温以上に肌寒く感じた。競輪場への一本道を歩いていると、こんなものを発見した。

案内標識の下に、直進すると競輪場があることを示す白い標識。この標識も、観音寺駅の周辺地図同様に、10年前で時間が止まっているようだ。

さらに歩くと、道の左手に白い板で覆われた工事現場のような場所が現れる。ここが観音寺競輪場の跡地だ。そこからでは中の様子を伺えないため、ぐるっと左に回って板の切れ目を探す。数分歩いてようやく、観音寺競輪場の跡地が姿を現した。

観音寺競輪場跡地

何もない。

もちろん、一昨年から解体工事が始まり、スタンドやバンクを始め全ての建物が撤去されたことは調査済みだった。それでも、いざ現実を目の当たりにすると、凄まじい空虚感に襲われる。

筆者は現役時代、そしてまだスタンドが残っていた頃にも観音寺競輪場を訪れたことが無かったため、どこに何があったかも全く分からない。

Twitterには、在りし日の観音寺競輪場の様子がいくつもアップされている。

こんにちは！
本日は、観音寺競輪場にてバンク練習を行っています。
タイム種目の計測では続々と自己ベストが更新されています。 pic.twitter.com/WFAR83dHRZ
— 高知工業高校自転車競技部 (@KTHScycling) May 27, 2018

「早く来ないと解体始まるよ」の誘いに最終開催以来8年半ぶりに観音寺競輪を訪れた。築47年のメインスタンドは風化と雑草の生命力に耐えながらも往時の姿を保っていた。初実況の場で、のどかな雰囲気が第二の故郷の様で思い入れがある。下旬から養生に覆われ解体が始まる。まだ3階から見ることが可能。 pic.twitter.com/iSZrwwvNhv
— 和田年弘 (@nenkouwada) October 13, 2020

ここには、確かに競輪場があった。それがわずか1年でその姿を消すことになった。比較すると、虚しさだけが募る。

跡地に建てられたサテライト観音寺はまだ真新しく、しかも訪問日は日曜日ということもあって中央競馬も発売中。建物の中は人の熱気で満ちていた。

現在、競輪所の跡地にはこの場外発売施設しか建設されていないが、将来的には駐車場の跡地に給食センターが建てられる予定らしい。もちろん、このような広大な敷地を有効利用しない手はない。地域の利益となるような、素晴らしい施設が建てられることを望む。

まとめ

2000年代～2010年代前半は、公営競技の売上が大きく落ち込み、多数の競馬場・競輪場が廃止に追い込まれた時代だった。観音寺競輪場もその流れに抗えず、姿を消した競輪場の一つだ。

競輪場が無くなることは、多くの人に物質的にだけでなく、精神的にも大きな影響を及ぼす。そこで働く人は職場を失い、所属している選手はホームバンクを失い、ファンは仲間と出会える憩いの場を失う。

幸い、2010年代後半以降は競輪の売上も上昇に転じ、以前ほど存廃問題も聞かれなくなった。しかし、いつ社会情勢が変化し、かつてのような厳しい時代がやってくるかも分からない。今の私たちにできることは、精一杯競輪場に足を運び、車券を買い、選手に声援を送ることに他ならない。一日でも長く、自分の愛する競輪場と共に楽しむためにも、出来る限り車券を買って競輪を応援したい。